|
有馬では珍しい、気軽にランチができる和食レストラン「温」。立ち寄り湯とのセットプランもあり、お洒落な空間でゆっくり過ごせそう。

奥の坊のいちばん人気、「神戸牛三昧プラン」のお料理。神戸牛のたたき、しゃぶしゃぶ、ステーキが盛り込まれたコースが出る!

「料金のわりに食事は豪華!」とお客さんに喜んでもらえるんです、と女将さん。京会席プラン、レディースプラン、お祝いプランなどもある。
奥の坊は、有馬でも歴史ある旅館。鎌倉期、十二神将にちなんで建てられた十二の宿坊のうちのひとつだ。今、建物にその面影はないが、おもてなしの心は代々受け継がれている。
ファン必見! 奥の坊は司馬遼太郎の名著『国盗り物語』で、斉藤道三が泊った宿として登場する。道三がのちに大金持ちになるきっかけの、油問屋の女主人との恋のステージの役割で、約40ページにわたって奥の坊を舞台にした2人のやり取りが展開する。
宿坊が開かれたときからいたという、湯女。奥の坊では代々「なつ」という通り名で呼ばれていた。毎年1月2日、有馬の芸妓さんが湯女に扮し、行基、仁西上人の仏像を出迎える儀式「入初式」を開催している。
「有馬温泉内の人気スポットの鼓ケ滝です。三方を山に囲まれた有馬は六甲山系の標高350〜420メートルのことろにあって過ごしやすいんですよ」と女将。
「瑞宝寺公園は、秋の紅葉がお見ごとです。公園が山の傾斜にあるので、ゆるやかな坂になっています。ウォーキングにどうぞ!」
|
 |
奥の坊に代々伝わる家宝
「子宝じょうご」の謎
―有馬のなかでも、奥の坊さんのように「坊」とつく旅館はまず、平安から鎌倉時代に登場するそうですね。
そうなんです。奈良時代に高僧の行基(ぎょうき)が有馬に来て、薬師如来を安置した温泉寺をつくって有馬温泉を開いたんです。当時の入浴は高貴な人の特権だったようですが、行基は湯を浴びて清潔にしましょう、と、一般に広く教えたそうですよ。それから有馬には人が集まりはじめて発展していきます。
大昔、温泉はたいてい僧侶が開いたそうですね。お湯の効果で傷が癒された人を集めては、「霊験が〜」とか言ってたそうで(笑)。
でも、11世紀に大洪水にあって荒れはててしまいます。 その後登場するのが我らが仁西(にんさい)さま。奈良の吉野の僧侶ですが、夢で熊野権現のお告げを得たとして有馬温泉を再興するんですね。
その時に仁西さんは、薬師如来を守護する十二神将にちなんで「十二の坊」をつくられました。これです、これが今に続く「坊」とつく旅館のはじまりで、奥の坊もこの時にできまして、運営を開始しています。つまり奥の坊は、温泉寺の宿坊のひとつだったわけです。
―はーっ、なんだかすごい由緒ですね…。そういえば有馬には、坊とつく旅館が今も何件がありますね。
1191年に十二の坊がつく宿が生まれました。その後、藤原定家や足利尊氏はじめ、室町時代には300年にわたって京都や大阪の貴族、豪族がこぞって有馬を訪れているんですよ。
皆さん、癒しが目的です。当時はかなり山深いのですが、畿内では当時、有馬は唯一の温泉地だったので。お金持ちの都人にとっては、一大療養地だったのかもしれません。
―有馬は畿内、都に近いという地の利がありますからね。もっと古くは神代の時代の伝説も残っているとも聞きましたが。
はい、有馬の起源は神代の説話からです。少名彦命(スクナヒコナノミコト)と大己貴尊(オオナムチノミコト)という神さまが、有馬の水たまりで傷を癒している三羽のカラスを見つけはったんですね。それで「お、これは温泉だ」と言われたかどうかはわかりませんが(笑)、とにかく、薬的効果がある湯が沸くということを発見された、と伝わっています。
7世紀前半には舒明天皇や孝徳天皇が有馬に行幸された、と日本書紀に記録されているんですよ。 孝徳天皇は子どもがいなかったことを気に病んで、子宝の湯といわれた有馬に3ヶ月近くも滞在しています。大勢でいらして温泉宮まで造営したらしく、「都が有馬に移ったような観あり」、と書いている本もあります。
その結果、孝徳天皇はついに子宝に恵まれて、生まれたのが有馬皇子(ありまのみこ)です。のちに悲劇の運命をたどることで有名な皇子さまですね。
―ああ、そうなんですか、有馬皇子って有馬温泉の有馬なんですね。
そのようです。あのぅ、それでね、奥の坊には子宝の湯に由来する家宝がありましてね、それ、「子宝じょうご」って言うんです。代々伝わっているもので、何度かテレビなどで取材を受けたこともあるシロモノなんです(笑)。
―はい? なんでしょうか、その、コダカラ…は?
な、なまなましい形をしているあるものですが、とても写真は出せません。え?イラスト?、絵でも無理です〜(笑)。
推測ですが、子宝じょうごを女性の体内におさめて有馬の湯につかると、内部に湯が浸透して子宮があたたまる、それで子どもができる、といういわれかな、と思っています、形からして(笑)。
なにかの文献で読みましたが、これは江戸時代の医者が考案した不妊治療のためのものらしく、当時、ひょうたん、ガラス、銀、銅などの素材を使って作ったそうですが、ついに、腕のいい技術者が木製のじょうごを作ったとか。
先山家は代々医者の家系だったので、それが伝わっていると父から聞きました。
―それ、現物か写真か、見たいですね! どんな形なのか気になります。有馬の湯は芯からからだが温まるので、女性のからだにいいということなのでしょうか。
あまりつっこまないでください(笑)。ではここで、有馬温泉の効果効能のお話をさせてください。有馬の湯は混合泉なんですね。関西方面の方ならよくご存知の、赤褐色をした「金泉」と愛称で呼ばれるお湯は、含鉄・ナトリウムー塩化物強塩泉のことで、海水の約5倍もの塩分を含んでいるそうです。有馬の湯のなかでも塩分濃度がもっとも高い。たくさんの鉄分も含むので、空気に触れると酸化して茶褐色のようになります。
次に有名なのが、「銀泉」と呼ばれる無色透明の湯。こちらはナトリウム・塩化物―炭酸水素塩泉と、単純放射能泉といわれるラドン泉があります。どちらも効能は、神経痛、筋肉痛、五十肩などからだの痛みを癒し、冷え症、慢性婦人病など女性の病によく効くことで有名です。最近はアトピーなど肌、皮膚の悩みを抱えて湯治的にお越しになる方も多いですね。
―有馬の温泉は、サイダーのもとっていう話は本当ですか?
よくご存知ですね! 昔、有馬の子どもは銀泉のひとつ、炭酸泉に砂糖を入れて飲んでいたそうで、これがいまのサイダーではないか、と言われています。日本のサイダーの発祥地ではないか、と。
炭酸泉が飲用できる公園にそのいわれが書いてありますが、有馬に来られたら一度飲んでみてください。すっごーい妙な味ですよ。
―はい、飲みました(笑)。からだにいいのはわかるのですが、砂糖ぬきでしたし、すっごーい味でした(笑)。歴史的には、私たちの知識では有馬は秀吉ゆかり、というイメージですが。
そうですね。室町時代に栄えた有馬も、戦国に入って大火災が起こり、有馬中の寺や家が焼きつくされています。それを救ってくださったのが豊臣秀吉です。ねねさんを連れて、何回も有馬を訪れているんです。
太閤秀吉の「有馬の大茶会」は歴史上有名ですね。千利休を伴って、お茶会を催しました。これにちなんで、11月2、3日には有馬の寺や旅館のあちらこちらを会場にした有馬大茶会というイベントを開催しています。全国から観光客の方が集まってこられます。
―奥の坊は司馬遼太郎さんの名著『国盗り物語』で、斉藤道三が泊った宿としても登場しますね。油問屋の御料さんと仲良くなる、見せ場の舞台で…。
そうなんです。物語の最初、まだ松波庄九郎の時代に、京都の奈良屋という大金持ちの油問屋の主人で後家のお万阿(まあ)という、それは美しい、京都中の男性の憧れを一身に集める女性との密会の場所…が奥の坊です。昔から活躍しています(笑)。
奥の坊で仏教書を読みふける庄九郎をお万阿が京から追いかけてきて互いに口説き合うのですが、「奥の坊の狐」の仕業とかなんとか言い合って口説いています(笑)。
その後、庄九郎はまんまとお万阿にとりいって奈良屋のお婿さんに入り、その財力を利用して戦国の世に出世を果たしていくんですねぇ。全体を通しても、奥の坊でのふたりの逢瀬は国盗り物語の重要なシーンのように思うんです。
―微妙で素敵な恋愛の駆け引きがけっこう長文で展開しますからね。読者の印象に残るのではないですか。昔のNHK大河ドラマの国盗り物語でももちろん、出てくるのですよね。
ええ、今年のお正月にテレビ東京系列で放映された長い歴史ドラマも国盗り物語でした。このころの奥の坊はどんな人がどんなふうに営んでいたのかなあ、とか、遠い昔の、歴史をつくるような場面に司馬さんが奥の坊を登場させてくださったことを考えると、いつも胸が熱くなります。
それから、有馬の温泉文化を伝えるうえでは、昔、温泉場にいたお客さんのお世話をする湯女(ゆな)の存在もよく知られているんです。有馬の湯女は教養があって、貴族の入浴前後には琴をひいたり和歌を詠んだりしたそうです。
うちをはじめ、有馬の宿坊では、代々、湯女も跡取りがいて、名前も決まっていたんですよ。奥の坊は「なつ」といいます。それだけ重要な役割を果たしていたのでしょう。
湯女には40歳から54歳までの大湯女と、13歳から22〜23歳ぐらいの小湯女とがいましてね、なかなか出てこないお客さんに、「あがれあがれ」とせかす役目でもあって、それが今の盆踊りの原点だ、という説もあります。
兵庫県では、明治元年に混浴禁止令が出て、湯女も禁止されますが、有馬だけは特例が出て、湯女は明治16年まで続きます。商売上欠かせない存在だったからと言われています。
―有馬の温泉文化、聞けば聞くほど奥が深いですねえ。
|